工匠からのお便り
blog
blog
松戸市、市川市、宮大工が手掛ける注文住宅・古民家再生の工匠、広報担当です。
春の記憶が飛んだかと思うほど急に夏日になった日。昨日まで着ていた防寒着が工場の隅に掛けられて風に揺れていました。
社寺修繕のご依頼を賜り、そのための立派で大きな材料が工匠の工場にたくさん並んでいます。
宮大工たちは重たい材料を一つ一つ慎重に移動させ丁寧に手刻みで作業を進めています。
そんな中で、若い大工の横顔はいつも真剣です。任された加工は最後まで責任を持ち、自分の技術にするために真剣でひたむきです。
同じ形の材をいくつもいくつも加工していく工程。
話しかけたら、彼の周りで作り固められた集中が全部はじけてしまいそう。
向けたカメラのシャッター音は工場の大きな機械音の中にいても場違いで目立ちます。小さなこの音でさえ彼らの前では鳴らないでほしいと、いつも思います。
教えられ、技術を身に付けるたびに少しずつ増していくプレッシャーの中で若い大工達は仕事をしています。
「何日もこの材料の加工が続いてますね。」
「はい。繰り返しの作業は、ちょっと苦手です。」
「そうなんだ。」
一瞬の作業の切れ間に話しかけてみました。でも、彼の緊張感ははじけて壊れたりしませんでした。
繰り返しと言っても、日々形の変わっていく材料。丁寧に丁寧に進める作業です。
「例えば、‶これ一人でやってみて。″って何か任されたい?」
「はい。やってみたいです。」
「でもそうなると難しい事もあるし、聞かなきゃならなかったり大変じゃない?」
「いや、やりたいです。」
会話のために彼がほんの少しほどいてくれた緊張感の中にブレや迷いはありません。
難しいかもとか、できないかもとか、怖いとか、先だってあれこれ考えることを彼はしないのかもしれません。
いえ、たくさん考えるのだと思います。考えるのだと思うけど、少なくとも私がする質問に対しては、ごちゃごちゃとした気持ちを交えずに答えているのだと感じます。
「毎日大変で心折れたりしない?」
「折れます。折れてます。でも、寝て立ち直ります。」
「それ、いいね。」
彼は、優しい物言いの中にもパキッとしたシンプルさがあると思います。
休日の話しをしてくれた時は、学生時代に打ち込んでいたバスケ仲間と会うと言っていました。
「うちの息子もバスケ始めたんです。楽しいって思ってくれるかな?」
「俺は、バスケ楽しかったです。楽しいって思ううちはどんどん上手くなるんです。」
と、話していました。後ろ向きのキャップと木くずまみれの作業着でゼロステップを教えてくれた彼は前向きで、ストレートな感じがします。
目指した宮大工の世界は厳しく、長く深い場所だと思います。
「どうですか?一年以上たちましたけど。棟梁も厳しいと思いますが。」
「大丈夫です。」
「きつい事ないですか?」
「楽しいっす。」
「え?一年経って、楽しくなってきた感じ?」
「いや、俺、なんだかんだ最初からずっと楽しいっす。」
短く、ぽんぽんっと返してくるんです。なんというか。物おじしない彼の雰囲気。淡々とした中にあるストレートでシンプルな積極性。
悩みや背負った日常のキツイ部分を隠さないけど混ぜない話し方。
水の中で見えにくい、色のないビー玉をスーッと簡単にとつかみ取って光にかざして見せてくれるように答えてくれます。
沢山の道具を並べて、作業に打ち込む数日後の彼は、また無言で真剣に材料に向き合っていました。
苦手が続いても、心がヘタレちゃう日があっても、若い大工たちは自分なりの方法で立ち直って、また朝早くから現場へ向かいます。
色々な事が起こる中で、色々な人達と仕事をして技術を学びます。うまくできない事も乗り切って一人前の宮大工になるための努力を積んでいくのです。
厳しい言葉、できない自分。腹の立つ日もあるでしょう。でも、ブレずにシンプルに楽しいと言ってほしいです。
だって、楽しいうちはどんどん上手くなるから。
多くの作業を抱えながらも話していただき、ありがとうございます。
いつか立派な棟梁になった時、思い出してほしいです。
一番きついはずの見習い大工時代に、”楽しい”って言えた事。
まあでも、彼なら思い出さなくてもずっと「楽しい」って言ってそうな気がします。
若い宮大工達は、困難を乗り越えて、多くの技術を楽しさと一緒に自分の力に変えていける、大きな可能性の持ち主です。
そんな彼らの真剣な姿をまた発信できたらうれしいです。